2014-06-01

June 1, 1974 悪魔の申し子たち〜その歴史的集会より



 1974年6月1日、ちょうど40年前の今日、イギリスはロンドンのレインボー・シアターでスペシャルなショーが行われた。イーノ、ジョン・ケイル、ニコ、ケヴィン・エアーズ。こうして改めて名前を書くと、泣く子も黙る「トンデモナイ」メンバーだが、後年の私たちが歴史的だの伝説だのといくら騒ぎ立てようが、はっきり言ってそんなことなど全く意に介さぬような人たちでもある。
 どうやらこのショーはケヴィン・エアーズのレコード会社移籍後に初めて発表されたアルバム『夢博士の告白』を記念して開催されたようだ。まずはケヴィンが友人のニコを誘い、ニコがジョンに声をかけ、ジョンがイーノを引っ張って来たという。巨匠と称される現在の姿を思い浮かべると、メンバー中いちばん年下のイーノの存在がなんとも微笑ましい。イーノはこの時期アンビエント・ミュージックにまだ開眼しておらず、ロキシー・ミュージックを追放されてソロとなり、捻くれたヘンテコ・ポップ・ミュージックを展開しながら羽を伸ばしていた頃で、後に「ケヴィン・エアーズは絶対、僕の一番好きなミュージシャン!それほど多くの人に認められていないのが残念だ」(1975.2 Music Life)という発言をしていることからも、イーノにとって彼らとの交流はかなり刺激的な経験だったことがうかがえる。

 アルバムの1,2曲目を飾るのはそのイーノだが、相変わらず美形なのにハゲでロン毛というなんとも奇抜な風貌で調子っぱずれの歌声を披露し、只者ではない不気味な雰囲気を醸し出している。続くジョン・ケイルはプレスリーの「Heartbreak Hotel」、ニコはドアーズの「THE END」のカバーだが原曲の面影は薄まり、かなり物々しいパフォーマンスだ。個人的にジョンのアレンジはプレスリーより断然好みだが、ニコに至っては惨憺たる儀式のようで狂気すら感じさせる。邦題を「悪魔の申し子たち」と名付けたのも納得だ。
 元々この人たちは上手くやろうとか技術的な側面に重きを置くタイプのアーティストではなく、アヴァンギャルドの精神で実験的な音を作り上げることで知られるロックの異端児たちである。イーノの不気味な可愛さ、ジョンの屈折した男気、ニコのファムファタールで魔女的な?色気とが沸々と混ざり合ったこの前半部分だけでも「奇跡」のアルバムと呼ぶにふさわしいのかもしれない。


 しかしこのアルバムの主役は間違いなく後半のケヴィン・エアーズである。彼の前では巨匠イーノもヴェルヴェッツの2人も霞んでしまう。
 ケヴィン・エアーズという人は常識から考えるとちょっと不思議な人で、若い頃から仕事に飽きると田舎に引っ込んで隠遁生活を送ってみたり、シェフになってみたり、早い話が根っからの自由人で好きな時にしか働かない、というスタイルでずっと生きてきた人だ。だからというか必然的に寡作である。音楽的才能とカリスマ性を持ち合わせた人間が名声などにはまるで無関心で、巨大なマーケットに取り込まれることを拒み、金が必要な時だけひょっこり顔を出してちょっとだけ働く。それが音楽を愛するがゆえに彼が貫いた姿勢なのだと想像すれば、なんとも愛おしい男である。そんなものだから彼の作る音楽も最高で、この「肩の力が抜けたゆるい感じ」は他の追随を許さない。
 残念ながらケヴィンは去年亡くなってしまったが、40年前のロンドンの空に放たれた花火を想いながら今日はこのアルバムを聴く。オリー・ハルソールのギターが風のようだ。