2013-07-03

伝記映画の傑作!『モンパルナスの灯』(1958年)あまりにも儚いジェラール・フィリップ


この物語は史実にもとづくが、事実ではない
現在 モジリアニの絵は
全世界の美術館や収集家が 高額で追い求めている
だが 1919年当時は見向きもされず
彼は自信を失い 絶望のどん底にいた


  *

貧困と病苦に苛まれながら、失意のまま夭逝した画家アメデオ・モディリアーニ。異様に長い首に虚ろな瞳の人物画は、一度見たら誰もが決して忘れられないだろう。ボヘミアンで酒浸り、多くの女性に愛された美男子でもあった。伝説と化した彼の半生はこれまでに2度映画化されていて、ジャック・ベッケル監督の『モンパルナスの灯』(1958年・フランス)は、妻ジャンヌとのロマンスを軸に彼の晩年を描いたもの。



私は伝記映画というものをあまり信用していないけれど、この映画だけは別格なのだ!伝記映画の傑作中の傑作といえる。初めて観たときは主演のジェラール・フィリップとアヌーク・エーメの、まさに絵に描いたような美男美女のカップルに見とれてしまい、モディリアーニの絵画よりもまずモディリアーニとジャンヌ、二人の生き様に興味を持った。

当時フランス映画界の貴公子であったジェラール・フィリップは繊細ではかなげでモディリアーニの役にうってつけというほかなく、健気で純潔なジャンヌにふさわしいアヌーク・エーメの美貌も文句無しに観る者を惹き付ける。そしてモレルという名の架空の画商、不敵なリノ・ヴァンチュラの存在感が凄まじい。この映画に描かれるモディリアーニの最期はあまりにも劇的すぎるけれど、息をのむラストシーンが感傷に浸ることを許さない。

そんなメロドラマすぎるモディリアーニの人生をジャック・ベッケルの演出力が救っている。(ジャック・ベッケルは名作『穴』は言うまでもなく、『赤い手のグッピー』も好きな作品)どこまでが事実なのかはっきりとは分からないけれど、モディリアーニの人物像は本物なのだろうと信じ込ませる何かがこの映画にはある。芸術家としてのプライドを捨てずに確固たる信念を貫く姿、純粋であるがゆえに不器用にしか生きられない、頑なで破滅的で、まっすぐな性格が併せ持つ優しさ。

ジャック・ベッケルはモディリアーニの人柄を思わせる何気ないシーンを自然につないで見せる。小言をいいながらも酩酊状態のモディリアーニの世話をしてやる女性、ボタンをつけてやる少女、優しいモディリアーニは娼婦と思われる女性に僅かな酒を分けてやる。モディリアーニが無条件に女から愛される人間であることを伝えるシーンの描き方はとても控え目だけれど、なぜだか真実味を帯びている。ジェラール・フィリップのはかなげな表情と、彼が持ち合わせた気品も手伝っているように思う。



モディリアーニは自身が生活に窮しているにもかかわらず、街角のバイオリン弾きにさりげなく小銭を投げる。彼の持つ優しさ、芸術を愛する者への敬意とも取れるこのシーンが実に素晴らしく、ぼんやりしていたら見落としてしまうようなこの一瞬の場面にモディリアーニの品格を捉えたジャック・ベッケルの手腕に思わず唸らざるを得ない。



若くして病を患い、酒と薬漬けの貧窮生活のモディリアーニは確かに不運だったけれど、高名な画家の生涯としてではなく、モディリアーニというひとりの人間の生き方は尊く、あまりにも美しく心が震える想いになる。非現実的で綺麗事のようだけれどずっとそのように感じているし、だからこそこの映画が好きなのだ。そして、モディリアーニとほぼ同年の36歳の若さで亡くなったジェラール・フィリップの存在にもずっと魅了され続けている。





モンパルナスの灯
原題:MONTPARNASSE 19
製作年:1958年 製作国:フランス 時間:108分
監督:ジャック・ベッケル
出演:ジェラール・フィリップ,リノ・ヴァンチュラ,アヌーク・エーメ,レア・パドヴァニ,リリー・パルマー


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