2012-11-13

『La noyée』(ラノワイエ・溺れるひと)



あなたは流れて行ってしまう/思い出の川の上を
僕は岸の上を走りながら/戻って来るようにと叫ぶ
それでもゆっくりとあなたは遠ざかる
僕は必死に走って/少しずつあなたに追いつく


ときどきあなたは沈む/揺れ動く液体の中に
いくつかの茨をかすめ/ためらいながら僕を待つ
まくれあがったドレスで顔をかくしながら
恥と後悔が/醜くすることをおそれて


あなたはもはや/哀れな漂流物
水に流れる死んだ雌犬にすぎない
けれど僕は今でもあなたの奴隷だから
流れの中に飛び込もう
記憶が停止したとき
忘却の大海が
僕らの心臓や脳を破壊しながら
永遠に二人をひとつにする



ゲンスブールが残した美しい曲のひとつに『La noyée(ラノワイエ)』という溺れ死んで行く女を歌ったものがある。この曲はまだ若造だった頃のゲンスブールがシャンソン界の大スター、イヴ・モンタンにわざわざ彼の家まで足を運んで自ら売り込んだ楽曲であったのだけれど、結局モンタンがこの曲を歌うことはなかった。そしてこの名曲をどういうわけなのか、ゲンスブール自身も録音しなかったので、長い間お蔵入りとなったままだった。しかし2004年にカーラ・ブルーニのカヴァーで世に知られてしまう(!)


ゲンスブールはこの曲を一度だけテレビで歌っている。1972年11月4日、Samedi Loisirという番組のようである。このときの映像は現在DVDにもなっていて、『Gainsbourg et caetera』という写真集に付属したCDに短いインタビューとともに音源が収録されている。幸運にも私はこのCDを持っていて、歌が終わると司会者が「セクシー」と言って、「ムハハ...」というゲンスブールのはにかんだ笑いが聞こえてくるのだった。


ゲンスブールが実際に番組で歌っている映像がYoutubeにあったのだけれど、コードが無効になっていて貼付けられなかったので、こちらからどうぞ。美しきセルジュ!こんなにも美しい詞を小汚いオヤジ(若い頃の作品だけれど)が書いた思うと、それだけでいつも泣きそうになる。私は本当にこの曲が好きで、秋になると無性に聴きたくなる。そしてこの曲を聴くと死にたくなる。





セルジュ・ゲンスブール 1970-1989 [DVD]
ユニバーサル インターナショナル (2011-05-11)

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