2012-04-06

ヴィム・ヴェンダース『都会のアリス』(1973年・西ドイツ)


ヴィム・ヴェンダースといえば『ベルリン・天使の詩』(1987年)もしくは『パリ、テキサス』(1984年)が真っ先に思い浮かぶだろう。前者は映像美の極み、後者はロード・ムービーを代表する不動の名作だ。ヴェンダースの映画を観ているとなぜかいつも20分と経たないうちに寝てしまう。ヴェンダースの淡々とした作風は好きだし、決して退屈というわけではないのだが、どの作品でもだいたい同じようなぐあいに眠たくなるというからには、ヴェンダースの映画には眠気を引き起こす装置のようなものがあるのかと考えてしまう。なにも監督自らが意図的に観客の眠気を誘う映画を作るはずもないので、あくまでもなぜ私が眠たくなるのかということですが。

ヴェンダースは映像作家として知られ、映像が美しいことで有名ですが、その細部まで作り込まれた映像こそ、眠気を誘う理由のひとつなのかもしれません。画面は淡々としていて余計な説明がなく表情と風景がすべてを物語る。決して台詞に語らせることなく、映像に語らせる。特に初期の作品なんかは劇的なプロットがあるわけではないし、登場人物のキャラクターもどこかぼやけた感じで、冒頭からの数十分などはとても単調で、私がいつも映画がはじまってすぐ寝てしまうというのもそのような理由からだろう。しかしヴェンダースの映画は面白いし、なんといっても映像が素晴らしい。毎回寝てしまうのはどうにかならないのかと思っているのですが、それもまたヴェンダース映画の深い味わいなのでしょう。

『都会のアリス』(1973年・西ドイツ)はヴェンダースの初期の作品で、このあと『まわり道』(1974年)『さすらい』(1975年)と続く、いわゆるロード・ムービー三部作の第一作目にあたる。三部作では『さすらい』もすごく良い映画だが、今日はひとまず『都会のアリス』についてつらつらと思うことを。


私はどうもくたびれたどうしようもない中年男性の自分探しの物語、再生するような物語に弱いようです。『都会のアリス』の主人公は中年というにはまだ若く、青年の美しさも残しているけれど、そのくたびれ加減は上等だ。ポラロイドで写真を撮りながらアメリカを放浪するドイツ人作家のフィリップは、持ち金も底をついたところでドイツへ戻ることにした。彼はアメリカについて何か書かなくてはならないが、ただひたすらポラロイドで風景の写真を撮っただけで、書くことのほうは行き詰まっている。アメリカを旅するうち、彼はだいぶ消耗してしまったように見える。帰国を決めるも、ドイツでは空港がストライキで閉鎖され足止めをくらってしまう。しかたなくアムステルダム経由で帰国することにするが、空港で出会った女性に娘のアリスをアムステルダムまで一緒に連れて行ってくれと頼まれる。

アリスの母親が突然姿を消したことでフィリップは夢とも現実つかないような、宙ぶらりんな精神状態のままアリスを連れてあてどもなく彷徨う。ニューヨークからアムステルダム、さらにはドイツの田舎へと二人は旅をするはめになるのだが、二人のあいだに会話らしい会話は見られない。移動することで物語は活気を帯び、フィリップとアリスの関係も変化していくが、それを語るのはやはり表情と風景を捉えたモノクロの画面なのだ。互いをあまり語らず、二人の言葉にならない交流こそがこの映画の一番の魅力なのだから、それをここで文章にするのも難しいのだけれど、人生にくたびれ果てていたフィリップがアリスとの交流によって癒されていくというのが物語の焦点になっているのかもしれない。


そしてなにより可愛らしいアリスは物怖じせずに好き嫌いをはっきりと言い、行儀も良く、母親がいなくなっても弱音を吐かずに気丈にふるまう。アムステルダムではオランダ語がわからないフィリップをリードする場面も。一方、フィリップはわけのわからない独り言を延々とつぶやき、アリスを寝かしつけるときもまともなお話すらできない、優しいのだけれどどこか頼りない、子どものような大人といった印象(決してダメ男ではない!)。だからこそなのか、二人が一緒にいるどのシーンもぐっとくるものがあります。ヴェンダースの映画ではこれが一番好きかもしれません。


都会のアリス
製作年:1973年 製作国:西ドイツ 時間:111分
原題:Alice Den Standten
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:リュディガー・フォグラー、イエラ・ロッドレンダー、リサ・クロイツァー、エッダ・ヒッケル


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