2012-02-17

ジャック・ドゥミによるフレンチ・ミュージカルの至宝『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)


ああ!こんなに素敵な映画があってよいのだろうか!登場人物も衣装も画面をおどる色彩も音楽も、すべてがかわいくてお洒落でいかしてて、いつだってこれを観れば幸せな気分になれる!たとえ人生に疲れて、はたまた恋人に振られて三日三晩泣き明かしたとしても、この映画があればなんとかやっていけそうな、嫌なこともぜんぶ乗り越えられそうな前向きな気持ちにしてくれるのがこの映画、『ロシュフォールの恋人たち』なのです!私は心理描写にを重点を置いた静謐な雰囲気の映画が好きだし、この映画はどちらかといえば突っ込みどころ満載のバカ騒ぎ風な作品なのだけれど、ああやっぱり私も女の子だなあと、女に生まれてよかったなあと感じさせてくれる数少ない映画のひとつなのだ。



フレンチ・ミュージカルの最高峰といえば、監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグランのコンビにお人形のように麗しいカトリーヌ・ドヌーヴ主演の『シェルブールの雨傘』(1963年)に間違いないのだが、そして私が初めてまともに最後まで観ることのできたフランス映画がまさにその『シェルブールの雨傘』だった。フランス語の授業で見せてもらい、担当の先生(どこかの大学から来ていた中年の「超」がつくほど優しい先生だった)がドヌーヴがすっかりおばさんになってしまったと嘆いていたのを思い出す。ドヌーヴが先生のタイプだったのかもしれないが、女性はきっと気に入ると思うと言いながらお勧めしてくれたのだった。二年時の必修課目だったのだが、二年生が私と友人の2人に四年生が2人というあわせてたったの4人という不思議な人員構成で、大学はあまり好きではなかったのだけれど、そのときの出来事は鮮明に覚えているのだから、今になって考えるとその授業は好きだったのだろう。

と、いきなり脱線したが、この『ロシュフォールの恋人たち』は、ドゥミ、ルグラン、ドヌーヴの黄金トリオにドヌーヴの実姉であるフランソワーズ・ドルレアックを加えた、運命の相手をめぐるとびきりハッピーな恋物語である。ハッピーなどと書くととても軽い感じがするのだが、というか実際にそのような印象の映画なのだが、このミュージカルが凄いのはシリアスな場面を歌っても悲恋の持つ暗さとはまるで無関係ともいわんばかりに、すべての物事が否定から肯定へ、どの登場人物もそのような姿勢をもって進行していく精神である。たとえドヌーヴが哀しげな表情を浮かべていても、『シェルブールの雨傘』ほどの深刻さで迫ってくることはない。舞台となるロシュフォールの小さな町がまばゆいばかりの愛と光に溢れ、『シェルブールの雨傘』とはまるで正反対な姿をしているからであろうか。しかしなんといってもそこに暮らす双子の姉妹が実像をともなって美しいからであろう。



フランソワーズ・ドルレアックはカトリーヌ・ドヌーヴの1歳年上の実姉である。小さい頃から演劇の道で活躍されていた。私はトリュフォーの『柔らかい肌』で彼女のことをはじめて拝見し、ドヌーヴの姉であることも知る。そういわれてみれば似ているような気もするが、ドヌーヴより大柄で役柄のせいもあるのだろうが自由で大胆な感じのする女性だった。私はドヌーヴの人形のような完璧な美しさに冷酷さを見たりしていたのだが、姉はドヌーヴに比べると顔の表情も自然にころころと変わり、なにより明朗活発そうでお人形の妹よりは取っつきやすいような印象を勝手に抱き、可憐なドヌーヴより大人っぽいドルレアックがかっこいい!と感化されやすい私はいつもの調子で美しい姿を眺めていた。彼女たちの本名はドルレアックなのだが、妹は姉に対して強い劣等感を抱いていたために、本名を捨てドヌーヴと名乗ったとも言われている。あれだけの大女優になられたドヌーヴがまさかとは思うのだけれど、本当に姉妹のことはわからない。けれど、この映画の双子のように二人の仲は良かったそうで、ドルレアックが事故に遭う直前も姉妹で休暇を楽しんでいたのだった。姉のドルレアックはこの『ロシュフォールの恋人たち』の撮影を終えた直後、25歳で亡くなってしまった。自ら運転する車で事故に遭い、脱出を試みるも叶わず帰らぬ人となってしまったのだ。だからこの映画は、姉妹がそろった若く美しい健康的な姿を拝見できるとても貴重な作品でもある。



映画はジャズを基調としたルグランの「キャラバンの到着」からはじまる。映画の内容よりもサントラのほうが有名であるからもはや説明不要なのだが、ルグランのスコアにあわせて踊る!弾む!恋!恋!恋!まさに人生謳歌!といった感じで、パステルカラーを存分に使った画面構成と、控え目でチープなミュージカル・シーンにはアメリカ映画とは一味も二味も違った魅力がある。私はやはり姉妹のデュエットのシーンが一番好きで、ファッションも振り付けもすべてが可愛らしくて、ずっとこの双子の世界に浸っていたいと何度思ったことだろうか。そしてまた余談になるのだが、私は中学生の頃ポストカードを集めるのが好きで、主にレトロな感じのする60年代のファッション・シーンを切り取ったものを集めていたのだが、この映画の双子の歌のシーンを観たときはっとしたのである。あの頃大切にしていたポストカードのなかにいた楽器を持った二人の女性がそこにいたからだ。ああ、また繋がっているのだ!と飛び跳ねるほど嬉しくなり、なぜこんなにも私は回り道をしているのだろうと不思議な気持ちにもなるのだった。



おそらくこのように感じるのは私だけではないと思うのだが、この映画のドルレアックはドヌーヴの引き立て役のような気がしてならないのである。本来の彼女はもっともっと美人であるはずなのに、そばかすを描いたり意図的に彼女の美しさを打ち消すようなメイクをしているように見えるのだ。そもそも赤毛のカツラ(カツラなのか?)が似合っていないのかもしれないが、どことなく残念な部分である。それでもこの映画がルグランのスコアと、本物の美しい姉妹によって支えられているという事実に変わりはなく、そしてこの映画は何事にも代え難い私を支えてくれる希望のような存在なのだ。



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